作成日:2025.10.19
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初級
市場・価格
JEPX(スポット)
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※本記事は、作成日または最終更新日時点で公表されている制度情報・数値・資料に基づいて作成しています。
JEPX(卸電力市場)入門 スポット/時間前のしくみと系統用蓄電池(BESS)の使い方まで一気に理解
JEPX(日本卸電力取引所)の基礎を、スポットと時間前の違いから価格の決まり方、BESSの使いどころまで一気に解説。最小単位・手数料・リスクにも触れ、初導入でも判断できます。
CONTENTS目次
JEPXの3つの要点
Point 1
企業どうしの電気の市場
JEPXは発電事業者と小売電気事業者が電気を売買する「卸売」の取引所です。取引会員となった事業者のみが参加でき、一般消費者は直接取引できません。
Point 2
2つの主要市場の特徴
スポット市場は30分×48コマを一度に清算。前日に翌日分をまとめて決めます。時間前市場は1コマずつの連続約定(ザラバ)で当日の需給ズレを調整します。
Point 3
需給の交点で決まる価格
価格は需要と供給の交点で決まり、全国指標( システムプライス)と地域の実価格( エリアプライス)が毎日公開されています。
JEPXとは何か?(定義と役割)
基本定義
日本卸電力取引所(JEPX)は、電気の卸売市場を運営する中立組織です。2003年に設立され、2005年から取引を開始しました。電力自由化の中核インフラとして機能しています。
主要な役割
電気の売り手(発電事業者)と買い手(小売電気事業者)をつなぎ、公正・透明な価格形成の場を提供します。市場の監視と運営により、電力の安定供給と健全な競争を促進します。
取引所としての機能
スポット市場、時間前市場などの取引の場を提供し、電力需給バランスの調整を支援します。原則休業日なし(365日)で運用され、価格指標の公開により、電力取引の透明性を高めています。
JEPXの歴史と設立背景
設立の背景と役割
日本卸電力取引所(JEPX)は、電力自由化の一環として2003年11月に設立されました。電力市場の透明性を高め、健全な競争環境の整備を目的としています。電力システム改革の中核的役割を担い、発電と小売の分離、新規参入の促進、市場メカニズムによる電力価格の形成を実現するインフラとして機能しています。
JEPXの主要な発展の流れ
-
2003年
一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)設立
-
2005年
取引開始 - スポット市場と先渡市場がスタート
-
2016年
電力小売全面自由化により取引量が大幅に増加
-
2019年
ベースロード市場開設、間接送電権取引開始
-
2020-
2025年取引会員が321社に拡大(2025年3月末時点)
現在の取引所の役割
設立当初は任意参加の私設取引所でしたが、2016年の電力小売全面自由化を経て、現在は日本の電力市場の中枢として機能しています。
取引量も年々増加し、2024年度のJEPX年間取引量は2,731億kWh(年平均価格12.31円/kWh)
となっています。
※出典:JEPX 2024年度事業報告書(2025年7月発行)
主要市場の仕組み①:スポット市場
30分ごとの取引単位
1日を30分単位で区切った「48コマ」それぞれについて、翌日に受け渡す電気の取引を行います。
ブラインド入札方式
取引参加者は互いの入札内容を見ることなく、前日までに売りと買いの価格と量を提示します。
一物一価の約定
需要と供給の曲線が交わる点でシングルプライスが決まり、全ての取引が同一価格で成立します。
ポイント
スポット市場は前日10:00に締切、約定処理後すみやかに通知され、翌日の電力供給計画の基礎となります。
※締切10:00=取引規程第16条。受付 7:00-17:00(締切10:00、業務規程準拠)。結果通知=取引ガイド『約定処理後すみやかに通知』
主要市場の仕組み②:時間前市場
当日の需給調整市場
スポット市場で取引した後、当日になって発生した需給ギャップを埋めるための市場です。天候変化や予想外のトラブルなど、予測できなかった変動に対応するために使われます。
板の気配に基づく連続約定方式
スポット市場と異なり、「売り注文」と「買い注文」が出会った時点で随時約定する「ザラバ方式」を採用。価格優先・時間優先の原則で、条件が合致した注文から順次成立します。約定価格は板に先に並んでいる注文の価格となります。
リアルタイム対応が可能
当日の電力需給実態に合わせて柔軟に売買が可能。実需給の1時間前まで取引できるため、直前の需給調整に活用されます。
※運用時刻はJEPXの運用・告知に従います。受渡1時間前までが原則
時間前市場の取引タイムライン
例:売り手が「10円/kWh 100kW」、買い手が「12円/kWh 100kW」を提示した場合、売り手の提示価格10円/kWhで約定します。これは売り手の注文が先に板に並んでいるためです。
単位の補足:
数量は出力(kW)。1コマ=30分なので、エネルギー量はkWh=kW×0.5h。例えば0.1MWは50kWh/コマとなります。
スポット市場との主な違い
スポット市場は「一斉入札・一物一価」で価格決定しますが、時間前市場は「板の気配に基づく連続約定(ザラバ)」で取引されます。天候変化や発電機トラブルなど、当日の予測外の状況に柔軟に対応するための仕組みです。
価格決定の仕組み
❶
買い手と売り手の希望
買い手は「安く買いたい」、売り手は「高く売りたい」。それぞれの価格と量の希望を市場に出します。
❷
需給曲線の交点
売り手の「供給曲線」と買い手の「需要曲線」が交わる点で市場価格が決まります。
❸
取引の成立
決まった価格で売買が成立。30分ごとの需給状況で価格が常に変動します。
価格が上がる例:猛暑の夕方
・夏の猛暑日の17~19時頃
・エアコン使用が急増して需要が高まる
・供給能力が限界に近づく
・→ 価格が上昇(20~30円/kWhも)
価格が下がる例:春の休日
・春・秋の気候がよい休日
・企業の稼働が少なく需要が低い
・太陽光発電が増え供給が潤沢
・→ 価格が下落(5~10円/kWhも)
参考:2024年度の年平均価格=12.31円/kWh(出典:JEPX事業報告書2024年度)
出典:JEPX 市場情報(スポット)
システムプライスとエリアプライスの違い
システムプライス
全国で送電制約がないと仮定した場合の理論上の価格。日本全体を一つの市場と見なし、すべての売買入札から算出される統一価格です。市場指標として公表されますが、実際の取引には使用されません。
エリアプライス
送電制約を考慮した実取引価格。各エリア(北海道・東北・東京・中部・北陸・関西・中国・四国・九州)ごとに異なる価格で実際の取引が行われます。実際の請求・支払いはこの価格に基づきます。
2つの価格の比較
| システムプライス | エリアプライス |
|---|---|
| 全国一律の理論価格 | エリアごとに異なる実取引価格 |
| 送電制約を考慮しない | エリア間連系線の容量制約を反映 |
| 市場指標・参考値 | 実際の清算に使用される |
| 日本全体の需給状況を反映 | 地域ごとの需給バランスを反映 |
市場参加者(取引会員)
発電事業者
電力を供給する事業者。電源を保有し、JEPXに電力を売る「売り手」として参加。火力・水力・原子力・再エネなどさまざまな電源を持つ事業者が含まれます。
小売電気事業者
電力を購入して需要家へ供給する「買い手」。旧一般電気事業者や新電力(PPS)など多様な事業者が市場から電力を調達し、顧客に販売しています。
アグリゲーター
複数の発電リソースや需要家の調整力を束ねて市場取引を行う事業者。需給調整市場やネガワット取引を通じて電力システムの安定化に貢献します。
その他の市場参加者
金融機関、トレーディング会社、一部の大規模需要家など。直接参加には取引会員資格が必要で、審査・登録手続きが必要です。
JEPX取引会員の現状
電力取引会員数: 321社(2025-03-31時点)
非化石価値取引会員数: 約571社
参加条件: 審査・登録手続き必要
一般消費者: 直接参加不可
出典:2024年度 事業報告書(2025-03-31)
BESS運用の型とリスクパターン
単純裁定(安→高)
価格の安いコマで充電し、高いコマで放電する基本戦略です。価格差が大きいほど収益性が高まります。スポット市場での計画的な裁定取引に適しています。
スポット計画+時間前微修正
前日スポット市場で大枠を決定し、当日の需給変動に応じて時間前市場で微調整します。柔軟性が高く、市場の変動にも対応できます。
再エネ連携
太陽光発電など再エネが豊富な昼間に充電し、夕方のピーク時間帯に放電する運用パターンです。再エネの余剰電力の活用と系統安定化に貢献します。
運用リスクに注意
・時間前市場は前日17:00に開場し、各商品は受渡1時間前までが取引締切です。
・直前の取引では板薄・スリッページが発生しやすく、未約定の場合はインバランスとなる可能性があります。
★インバランス:計画値と実需給のズレ精算。時間前で未約定だと発生しうる
※取引ガイドVer.2.00に基づく
BESSの損益"数字の通り道"とインバランス
利益計算の基本とインバランス(同時同量)リスク管理
BESS損益の基本公式
利益 = (売値 − 買値) × 放電量− (往復損失・手数料・劣化相当)
取引単位と効率:
最小取引は0.1MW=30分で50kWh。システム往復効率:80-90%程度(機器や運用で差)をかけた実効放電量で損益計算する
・最低必要スプレッド:往復効率80%・手数料合計0.13円/kWh(スポット0.03+時間前0.10)なら、少なくとも数円/kWh以上の価格差がないと赤字になり得る
・効率評価:メーカー仕様値をベースに、実運用でのシステム全体効率を考慮して評価することが重要
BESS実務ポイント
❶
板薄(スリッページ)リスク:時間前市場で取引量が少ない時間帯は約定が難しく、未約定→不足インバランス化の注意が必要
❷
スプレッド計算:往復効率・手数料・劣化費を含めた実効スプレッドを再計算し、利益確保の判断基準にする
❸
最終チェック項目:ゲートクローズ前に「未約定」「計画未反映」「エリア違い」を監視し、アラート設定を推奨
同時同量の流れ
❶
前日計画(スポット市場)
翌日の48コマ分を一括で計画・入札
❷
当日修正(時間前市場)
需給ギャップを当日のザラバ取引で調整
❸
ゲートクローズ(各コマ1時間前)
引締切後は計画変更不可
価格差による収益感度表(50kWh/コマあたり)
| 価格差 (円/kWh) |
粗利益 (円/コマ) |
手数料影響 (スポット・片側/往復) |
手数料影響 (時間前・片側/往復) |
|---|---|---|---|
| 5 | 250 | -1.5円 / -3.0円 | -5.0円 / -10.0円 |
| 10 | 500 | -1.5円 / -3.0円 | -5.0円 / -10.0円 |
| 20 | 1,000 | -1.5円 / -3.0円 | -5.0円 / -10.0円 |
*手数料:スポット市場0.03円/kWh→1.5円/コマ(片側)/ 3.0円(往復)、時間前市場0.1円/kWh→5.0円/コマ(片側)/ 10.0円(往復)(最新料金は公式サイトで確認)
インバランスリスク軽減
スポットと時間前の併用戦略を立て、時間前市場での「板の厚み」を事前確認。未約定リスクを最小化するよう取引価格に余裕を持たせる
実務チェックポイント
未約定分は「同時同量の差異」としてインバランス精算対象になります。計画と実績の乖離を最小限に抑える運用が重要です
参考出典:電力・ガス取引監視等委員会「インバランス制度」、電力広域的運営推進機関(OCCTO)資料
ビジネスや生活への影響
JEPXの価格変動は、電力市場の参加者だけでなく、企業や一般家庭の電気料金にも様々な形で影響を与えます。
小売電気事業者
JEPXでの調達コストが小売料金設計や収益に直接影響します。市場価格の変動リスクをいかにヘッジするかが事業の安定性を左右する重要な要素になります。
需要家(企業)
市場連動型の料金プラン選択やデマンドレスポンス(需要抑制)の判断材料となります。高額時間帯の電力使用を回避・調整することで大きなコスト削減が可能です。
消費者・一般家庭
通常の定額料金プランでは間接的な影響ですが、市場連動型プランを選択すると、JEPX価格の変動が直接請求額に反映されます。
※蓄電池所有者:安い時間に充電・高い時間に放電する「アービトラージ」も可能
料金プラン比較
標準的な料金プラン
・固定料金または段階料金制
・JEPX価格変動の影響は間接的
・価格の安定性が高い
・長期的には市場変動を反映
市場連動型プラン
・JEPX価格+α(手数料等)で決定
・市場価格変動が直接反映される
・価格変動リスクが大きい
・安い時期には大幅な節約も可能
よくある質問・まとめ
Q家庭や企業はJEPXで直接買えますか?
いいえ。JEPXで取引できるのは取引会員に限られます。一般の需要家は小売電気事業者との契約を通じて間接的に市場の影響を受けます。
QJEPXの価格=自分の電気料金ですか?
必ずしも一致しません。小売料金には託送料金、手数料、リスクヘッジ費用などが上乗せされるためです。ただし市場連動型プランではJEPX価格の影響が強く出ます。
Q「システムプライス」と「エリアプライス」の違いは?
システムプライスは全国の基準的な指標、エリアプライスは地域のネットワーク状況や需給によって異なるエリア別の価格です。いずれも市場情報ページで確認できます。
QJEPXの価格はいつ・どのように決まりますか?
スポット市場は前日に翌日分の価格が30分ごとに決定します。時間前市場では当日、連続取引(ザラ場)で随時価格が決まります。いずれも需給バランスで価格が変動します。
JEPXを理解するための重要ポイント
・JEPXは事業者同士の「電気の卸売市場」であり、発電事業者と小売電気事業者が電気を売買する場です。
・取引の中心は「日前(スポット)市場」と「当日(時間前)市場」の2つ。スポットは翌日の電気を30分単位で入札し、一物一価で決定します。
・価格は需給バランスで変動し、燃料価格や天候、需要の状況などで日々変化します。公式サイトで価格情報が確認できます。
・JEPXの取引価格は、小売電気料金や企業の電力調達戦略、蓄電池の充放電タイミングなど、様々なビジネス判断に影響します。
・JEPXを知ることで電力市場の仕組みが理解でき、これからの脱炭素社会に向けたエネルギー戦略の基礎知識になります。
監修者
青栁 福雄
Aoyagi fukuo
Energy Link 取締役 COO
系統運用・需要側制御・スマートグリッド分野の実務家。東京電力にて変電所の建設・運用・保守および大口顧客向けエネルギーソリューションに従事。マイエナジー出向時には2002年日韓ワールドカップの複数会場および国際放送センターの電源責任を担当。東光高岳では執行役員としてスマートグリッド事業を統括し、NEDO事業等に参画。2019年にEnergy Linkを創業し、分散型電源の導入・利活用を推進。
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